- Coupaの日本市場対応が完了し、実適用可能レベルに。
- 製品の基本コンセプトが対極的なAribaとCoupaの比較検討は必須。
- 無比較の導入は、ベンダーの手抜き作業に繋がりねない。
3月7日のイベント“Coupa Partner Sales Enablement“は、Coupaの日本市場対応状況を知る絶好の機会でした。そしてそこでは、Coupaが日本市場に本格展開できるレベルに改善が完了したことが明らかになりました。昨年11月の製品お披露目シンポジウムでは不安を感じる部分もありましたが、ほんの4か月で不安解消済です。
そこでこのブログ記事では、Coupaの現在の状況を紹介するとともに、間接材ソリューションとして、なぜCoupaを検討する必要があるのかを記述してみます。
注)掲載写真については、Coupa Japanの承認を得ています。
Coupaの日本市場対応は完成レベルに到達
(1).日本語化対応
まずCoupaの日本語化対応状況です。昨年11月16日の「2018年Coupaジャパン・シンポジウム」のデモでは、画面の日本語表現にかなりの不適切さがありました。日本語の修正が十分に反映できていないというアクシデントがあったにせよ、不安を覚えるレベルでした。しかし今回の3月7日のデモでは改善が進み、日本語の不適切表現がもはや見当たりませんでした。短期間で大幅な改善です。
但し、「推奨事項」欄の一部は、まだ英語のままで残されています。
Coupaには業務管理指標(KPI)の現状値を、目標値や他社(以降のコミュニティ・インテリジェンス機能も参照)と比較して、改善すべき項目を提案してくれる機能があります。その改善提案項目が示されるのが「推奨事項」欄です。この欄の一部がまだ英語のままでした。しかし英語で残っている部分は日本語化すると却って判りにくくなる内容のため、現時点では意図的に残していると思われます。しかし残されているのはわずかな分量であり、また必要があれば、今後日本語化することも可能と思われるため、もはや問題ないレベルと考えます。
例えば、以下はCoupaのインサイト画面です。もはや意味が通じない不自然な用語はありません(文字数の制限があるため、表現の工夫も見られます)。
(2).法規制対応
法規制対応では、電子帳簿保存法の対応(タイムスタンプなど)が必須対応要件となります。加えて下請法などの考慮すべき法規制があります。これらは昨年11月時点では未対応でした。そのため「このままでは導入検討はできない」との、出席者の不安の声もありました。
しかしこの点についても、イベントと同日の3月7日に、監査法人の税務部門がCoupaの対応にお墨付きを出したと伺いました。ゆえに日本の法規制対応への不安も解消されました。
(3)情報ソースへの対応
さらには、日本市場に対応した情報ソースの問題もありました。
例えば、Coupaは外部調査会社が提供するサプライヤー信用レート情報を内部に保持しています。そして導入企業はそれを個々のサプライヤーの信用リスク管理に利用することができます。ですがもし、日本企業の情報が取り込めていなければ、日本企業にとってはこの機能はほぼ無用の長物となってしまいます。
しかしこれについても、日本企業分はD&B社から、その提携先の東京商工リサーチ(TSR)の情報が提供されるように調整できたと伺いました。加えてパンチアウトカタログの提供先など、日本市場に対応した情報ソースとの連携対応が進んでいるとのことでした。
このように、昨年11月の製品お披露目での日本市場対応に関する不安が、今回(3月)のデモでは一挙に改善されていました。Aribaの法規制対応は完了までに1年以上かかっていたと認識しています。それに対し、4か月間で迅速に対応完了したことは、Coupa Japan、さらにはCoupaアジアパシフィックの熱意の表れと思われます。
改めてCoupaの特長を整理する
このように日本市場への対応が進んだことで、電子購買ソリューションCoupaの日本での導入が現実の選択肢となりました。Ariba以外の選択肢ができたことになります。
直感的で使いやすいCoupaの操作性は、多くの製品比較レポートでの高得点が示すように、大変に魅力的です。特に間接材購買では、使い勝手の悪さは、一般ユーザーの大きな不満、ひいては購買部門が設定した購入ルートを介さないルール違反購入(Maverick Buying)の多発にも繋がりかねません。この点からも、Coupaの使い勝手の良さは重要です。
加えて、Coupaには独特の興味深い機能、コミュニティ・インテリジェンス機能があります。この機能について、少し記述してみましょう。
誰かが選んだ選んだサプライヤー群(実はバイアスがかかっているかもしれない)よりも、みんながいいと言っているサプライヤー群の方が信頼性が高いのかもしれない。あるいは特定機関の調査データよりも、みんなの実態を反映したデータの方が精度が高いかもしれない。このような導入企業での実際値を重視するCoupaの「コミュニティ・インテリジェンス」の考え方は、「特定の権威・制度に基づく信頼(Institutional Trust)」ではなく、ウーバーやエアビーアンドビーの相互評価付けのような「脱中心化された信頼(Distributed Trust)」へと世界は移行しているとした、レイチェル・ボッツマンのベストセラー「トラスト(原題: Who Can You Trust)」の考え方に通じるように思えます。
実際の例で見てみましょう。以下は前述のインサイト画面に表示されている内容です。 インサイト画面では、「節減」、「効率性」、「定着度」の3つに区分されて、主要な業務管理指標(KPI) が縦に並びます。一方で横軸には「現状(自社実績値)」、「目標(自社目標値)」、「傾向(実績の時系列)」といった自社の値が表示されます。各種の業務管理指標(KPI)の自社の状況が、このようにリアルタイムで把握できるだけでも、Coupaの「インサイト」は魅力的な機能です。
しかしそれだけに留まりません。その右横にある「リーダー」という項目が、Coupaの特長的な部分です。ここにはCoupa導入先全体のうちの上位企業での実績値が表示され、自社実績値との比較 (ベンチマーク)できるようになっています。せっかく購入した調査会社レポートの値が自社にマッチしていないように感じることは少なくありません。しかし、他社のCoupaユーザーでの実際の値が比較データとして提示されるとなると、かなり説得力が増すのではないでしょうか。
業務管理指標(KPI)の比較に加えて、Coupaではユーザー群(コミュニティ・インテリジェンス)の力をサプライヤー管理にも活用します。例えば、Coupaでは他社が利用しているサプライヤーを検索し、そのサプライヤーに他社がどのような平均評価点(5点満点の星の数)をつけているかを見ることができます。他社の評価がわかれば、それを優良な新規サプライヤーの発掘への適用、あるいは取引中の自社サプライヤーのリスク兆候の把握(他社が予期せぬ低評価をしている場合など)に利用できるようになります。
Aribaの場合は、「Aribaネットワーク」という制度(仕組み)にAribaが登録・管理しているサプライヤー群を使うことを求められます 。それに対しCoupaではこのような口コミ的な、コミュニティ・インテリジェンスでのサプライヤー状況の共有方式が採られます。
前述の「トラスト(Who Can You Trust)」で示された「制度に基づく信頼」と「非中心的に分散された信頼」という概念のどちらに基づくかの思想的な差異が、両製品には存在しているようです(全社がAriba、後者がCoupa)。もちろん、どちらにも一長一短があります。従って、導入の際には両者を十分に比較し、どちらが自社に適するのかを考える必要があります。
独占の“害悪”~なぜCoupaを検討する必要があるのか
もちろんCoupaが全面的に優れているわけではありません。日本市場で先行する競合製品のAribaにも優れたところは多くあります。例えば、サプライヤー管理に関してはSupplier Lifecycle Management(SLM)の考え方を採用するAribaの方が、機能の充実度ではCoupaを上回ります。しかし適正なサプライベース(サプライヤーベース)の確保を目的とするSLMの適用は、サプライヤーの代替性が高い間接材で、果たしてどの程度まで必要でしょうか。サプライヤーとの長期的で密接な関係が必要となる場合が多い直接材では、SLMは重要です(これについては、私自身も講演などでその意義を説いてきました)。しかし間接材では果たしてどうなのか、サプライヤー管理を過不足なくどの程度まで行ったらよいのか…この辺りにじっくり考えを巡らすには、比較できる複数の製品があるのは好都合です(反対に比較するものがなければ、十分に考えが及ばないままで、進めてしまいかねません)。
加えて、ある製品が独占的になっている場合に生じる悪弊の例をもう1つあげてみましょう。あるAribaの導入現場では、導入機能範囲の決定に際し、導入担当ベンダーの社員の間でこんな会話が行われていました。「まぁ、とりあえずEnglish Auctionでいいんじゃない」。熟慮も何もない、この「まぁ、とりあえず」は、昨年実際にあった事例です。
English Auctionというのはダラダラと何時間もかけて入札を行わせる昔ながらの逆オークション方式です。それに対して、現在は入札期間を短時間に区切って効率的に決着をつけるDutch AuctionやJapanese Auctionの逆オークション機能がAribaでも、Coupaでも提供されるようになりました。追加提供されたことからもわかるように、適用方法を誤らなければ、これらは大きな効果があがります。
他の選択肢がない場合には、その製品(Ariba) の導入が決まれば、担当する導入ベンダーは学ぶ姿勢などなく、前例に則して「深く考えることなく、なんとなく…」の油断した導入を行ってしまいがちです(前述の通りです)。その結果、残念ですが、この事例の導入先では、より先進的なオークション方式が導入されることなく、十分な期待効果も手にできていないと想定されます。
しかし比較対象となる競合製品が存在すれば、このような事態の発生は大幅に防止できるのではないでしょうか。競合状態にあるベンダーはメリットを網羅的にアピールした十分な提案を行うようになります。またそのために、ベンダー自社内での切磋琢磨も抜かりなく行われるはずです。しかし一方で、複数の選択肢がない寡占状況では、製品の本来もつ効力が十分に引き出されず、進歩も発展も乏しい状況が生み出されかねません。
そのような状況を避けるためにも、今回のCoupaの日本市場対応が完了したことは重要と思われます。今後はAribaとCoupaで十分な比較検討を行ったうえで、選定した製品の効力を最大限に発揮する導入が進むはずです。そしてこのような比較検討を的確に行い、最大限の“良い買い物”に結びつけることを得意技とするのが、まさに購買部門ではないかと考えます。